20年ぶりに村上龍の「5分後の世界」を読んでみたらやっぱり名作だった

2014-10-13 12_04_33-Amazon.co

高校時分に読んだ本で最も記憶に残っている本の1つが村上龍著の「5分後の世界」です。

あれから20年余り。ふとしたことでこの本のタイトルを目にすることがあり、懐かしさ ともう一度読まなければ という焦燥感にかられ本探しの旅にでました。

恐らく実家のどこかにはあるのだろうけど、あいにく現住所はアメリカ。送ってもらうコストを考えたら、こっちで探したほうがいいだろうと思い、近くのBookOffへ。

アメリカにもBookOffがあるんです。

そして、お目当ての村上龍コーナーへ。

ここで見つからなければ、取り寄せするしかありません。大学の合格発表の面持ちで背表紙を一つ一つチェックしていると、、

ありました! いやはや、ラッキー。

次作の「ヒュウガウィルス」もあったので、5分後~ を読み終わったら買いにこよう。

家に帰って早速本を開くと、20年の時を経て、また5分ずれたパラレルワールドへと誘われます。

*ここからはネタばれありなので、未読の方は注意してお読みください。

はじまり

AV制作会社の社長である主人公の小田桐は、休養中の箱根でジョギングをしていると突如、見知らぬ土地で見知らぬ集団の中に混じり行進をしています。

わけもわからず、集団についていくと、この行進は”準国民”になるための審査会場へ向かっていることがわかります。

どうやらこの集団は”非国民”の集団で、ここをパスすると”準国民”となることができらしいのですが、審査官の質問に正しく答えられない小田桐は別室へ連れて行かれ、

同じく疑わしいと判断された者と一緒に、狭い独房で数日間を過ごすことになります。極限状態での監禁が数日間続いた後、小田桐らがつれていかれたのは、、、。

ここから物語は急展開を見せ、小田桐が迷い込んだ世界のベールがはがされていきます。

世界観

小田桐が迷い込んだのは紛れもなく日本ですが、私たちが知るそれではなく、ある日を境に別の未来を進むこととなったもう1つの日本です。

そのある日とは、1945年8月5日。 広島に原爆が投下された日です。

史実ではこの原爆により日本は連合軍に降伏をし、ポツダム宣言受諾、和平への道へ という歴史をたどりますが、

もう1つの日本では、降伏をすること拒み、超軍事国家になることを選びます。

その結果、広島の後に、小倉、新潟、舞鶴へも原爆が落とされることとなり、本土決戦へと突入していきます。

そして、アメリカ、ロシア、イギリス、中国からの侵略を受けて、日本の領地は日に日に狭くなり、人口も激減していきます。

やがて日本は長野の地下にアンダーグラウンド(UG)と呼ばれる組織を形成し、世界に名だたるゲリラ組織として連合国と戦争を続けることになります。

現代との相違について

荒唐無稽ともとれるパラレルワールドですが、あながち全くありえなかった世界ではない というところが本作の面白いところです。

事実、広島・長崎の原爆で降伏しなかった場合は、数日後に次の原爆を落とす作戦が決まっていたといわれています。

また作中では九州を舞台に中国・アメリカが衝突し、国土が分断されるのですが、これは朝鮮戦争が場所を変えたものと見ることもできます。

北海道・東北はロシアによって侵攻せれますが、解決しない北方領土問題を見る限り、降伏によるアメリカの保護がなければ、これもまた起こりえた事象ともいえます。

ちなみにもう1つの日本では原爆投下後に日本が取れる選択試と結果について多くのシミュレーションを行っており、現在の日本(広島・長崎後に降伏したケース)はシミューレーションの8番目とされています。

戦闘について

作中、かなりの量の戦闘シーンが描かれています。それらはまるで自分が戦場に落とされたと錯覚するほど、緻密でグロテスクです。

超軍事国家となった日本は、世界最強の戦闘集団として世界から畏怖される存在となっており、各地の紛争に、いわば傭兵のような立場で活躍することになります。

その強さは、十数人で一個中隊を壊滅させるほどと言われています。

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UG住民の思想

UG本部内で使われている教科書に書かれている内容。

「原爆を投下されて降伏していたら、命の大切さを思い知ることなく、連合国により文化的に支配されていただろう」

人口26万人にまで激減した日本では最も大切なことは「生き延びること」。そしてそれを次世代へ伝えること。

世界有数の自殺者の多い国となった現代の日本、そして、街中に溢れる英語、ファッション、食べ物。彼らの拒んだ連合国による文化的支配は、もはや意識することもなく、現代日本へ浸透しています。

それらにより日本古来の文化が失われていることを考えると、彼らの”シミュレーション”は(全てではないですが)正しかったといえます。

20年ぶりに読んでみて

改めて、設定の凄さに関心しました。高校生の時はその世界観にぐいぐい引き込まれて、完全にその世界にどっぷり使っていた気がします。若い脳は純粋ですからね。物語の中に自分を投影することも楽勝です。

主人公の隣で物語を進めていく感覚だったのを覚えています。

今回は逆に俯瞰で読むことが出来たと思います。先述しましたが、現実的にどのくらい”ありえた”のか、そういう世界ではなぜその思想に行き着くのか、主人公の隣ではなく、

斜め上から物語を見進めることができました。

一冊の本で2通りの楽しみができたなんて、幸せ者です。 

そういえば私の母親は「氷点」という本を繰り返し読んでいるといっていました。人生それぞれのステージで思い入れる登場人物違うから楽しいらしいです。

みなさんも人生を通して繰り返し読んでいる本はありますか? 

もしまだなら本棚に眠っている本を手にとってみください。きっと思わぬ発見があると思います。

五分後の世界 (幻冬舎文庫)

ちなみに次作はこちら。

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 (幻冬舎文庫)

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