アメトークの読書芸人で話題になった 「コンビニ人間」を今さら読んでみました。
日本で生活したことがある人なら、おそらくほぼ毎日コンビニエンスストアのお世話になっていると思います。毎日何気なく接している”コンビニ店員”にももしかしたらこの主人公のような人がいるかもしれません。
以下、ネタバレありの感想です。
主人公は36歳の女性。大学を卒業してからずっとコンビニの店員。
それは彼女が望んだというよりも、”普通の人”を演じるために被った隠れ蓑。
幼少時から普通の感情を持つことができなかった彼女は、周りの人に変人扱いされることが多く、しかもなぜ自分だけ違うのか理解ができません。
家族、とりわけ妹は彼女が”治る”ことを切に願っていますが、主人公が36歳となった今でもそれは叶っていません。
彼女が一番人と違うところ。それは物事を直接的に解決しようとするところです。乱暴に言えばサイコパス。
世の中には暗黙のルールというものがたくさんあって、ルールを破ればものすごい近道になるけれど、そのボーダーを破ると周りから好奇の目でみられます。
極端に言えば、何かが欲しい時に、盗めば一番早いけど、それは社会のルールで禁止されています。
嫌な人がいたら叩いたり傷つけて、鬱憤を晴らせば早いけど、それも社会のルールで禁止されています。
”普通の人”それを知っていて、あえてそのルールを破ることはしません。というより、おそらく幼少時の道徳教育によって潜在的に頭と心に刷り込まれているのでそもそも行動の選択肢に入りません。
主人公の女性はその部分が大きく欠落しており、はみ出さないことに苦心して大人になっていきます。
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はみ出さないということ
社会において”人間かくあるべき”から外れた生き方をしている人に対して、”なぜ?”という純粋な疑問がぶつけられます。
特に日本ではその傾向が強く、勉強をして就職をして、結婚をして子供を授かるというベーシックを外れると、とたんに周りから”なぜ?”という感情が向けられます。
主人公は本当の自分を隠し、コンビニの同僚である同年代女性の趣味趣向から話し方を真似て普通であることを演じ続けます。
物語の中盤には新しくコンビニにアルバイトとして入ってきた男性と同棲を始め、36歳女性ならば当然通っていなければいけないと言われている道を試みます。
しかしそれは決して彼女が心から望んでいるものではなく、妹が喜んでくれるから。
仮に彼女にサイコパスであったとして、家族が喜んでくれることが嬉しい というのは主人公の冷たい感情の中で唯一ほのかに暖かい場所のような気がします。
徹底的に無感情な人物を描くならば、この部分はいらないんじゃないかと思ってしまいますが、この部分がないと話に厚みが出ないのも確かです。
ちょっと話は逸れましたが、一般的ではない道を進む人に後ろ指を指すのはよくあることです。主人公のような特異な性格を持っていなくても、勉強しない人、就職しない人、結婚しない人、あえて子供を作らない夫婦、たくさんいます。そんな人に対して、お、ちょっと普通と違うな という感情を持つことは往々にしてあります。
主人公はその一番極端な部分にいる人なのでそちらにフォーカスを当たっていますが、妹たちがいるその他大勢側にもある種の集団心理的な狂気を感じます。
同級生との食事の場面でよく表れていますが、この歳ならば当然こうで、コンビニ店員をやっているのはこういう理由がなければ納得ができない といったところなど、10歩くらい下がって見てみると、それはそれでおかしな押し付けだなとも思います。
作者が描きたかったのが”変わった主人公”なのか”常識を作り上げているおかしな大衆”どちらなのでしょうか。
読み手によって主体が変わるのかなーとも思います。
自分も含めて9割の人は大衆側に立つと思うので、「主人公がおかしいに決まってるじゃん」となると思いますが、少なくとも日本中にいるコンビニでアルバイトをしている36歳独身女性はちょっと違う感情を持つんじゃないかと思います。
作者の方も1979年生まれの36歳女性ということなので、自分の感情の一部を主人公に投影したのかもしれませんね。(作者のデータは性別と年齢しか知りませんが。)
私は読者だから勝手なことを想像して、勝手に解釈していますが、物語が平坦である分、いろんな考察ができると思います。
しかも舞台は身近なコンビニ。
さらっと読める良書だと思いますので、アメトークの読書芸人同様、私もおすすめの一冊とさせていただきます!
後記
そして続けざまに”悪の教典”を今日読了したのですが、これもサイコパスな話で。。。だからってわけじゃないですが、めちゃくちゃ面白いです。
作者の貴志祐介は「新世界より」で大ファンになりましたが、いやはや、読者を飽きさせない手に汗握る展開は秀逸の一言です。ってこれはまた別な機会に書評を書きたいと思います。
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